私がアップル社のインターンシップをTwitterで募集することになった経緯と結果

2012年3月末、私(syuhei)はアメリカ西海岸(サンフランシスコ〜ロサンゼルス)を旅行しました。そのとき、ひょんなことからアップル社のインターンシップ募集の仲介をすることになり、Twitterを通じてフォロワーの方々に呼びかけ、集まった履歴書をアップル社に送りました。得難い経験をしたと思いますので、その経緯と結果をここに残しておこうと思います。

クパチーノのアップル本社へ

サンフランシスコ滞在最終日(太平洋標準時3/21)、ロサンゼルスへ移動するグレイハウンドまでの時間を潰すため、ホテルのフロントに荷物を預けてCaltrainと路線バスを乗り継いでクパチーノ(Cupertino)にあるアップル本社へ行ってみようと思い立ちました。当時の私はMacユーザーではなかったのですが、アップル本社に世界で唯一の公式グッズ店(The Company Store)があると知り、お土産を買いに行こうと思ったのです。

Caltrain San Francisco駅

アップル社員と偶然知り合う

アップル本社に到着した私は看板の前で記念撮影をしたいと思い、通りがかった女性(おそらく四十代前半)に声をかけました。iPhoneをカメラモードにして渡すと、彼女は快く写真を撮ってくれました。その時の彼女との会話を記憶をたどって再録します(英語は関西弁に翻訳してあります)。

アップル本社にて

女性「はい、撮れたで」

私「おおきに、ありがとうございます」

女性「仕事で来たんかいな?」

私「ちゃいます、ただの物見遊山ですわ。お土産でも買おうかな思いまして」

女性「そうかいな」

私「せやけど広いでんな。土産もん屋の場所がわからんで往生してまんねん」

女性「お店はあっちやで。ところで、あんさん英語けっこう上手いやないの」

私「おおきに。日本の大学で英語の講師やっとりますねん」

女性「え、大学の先生かいな!ちょっと待ってや。もうすぐウチの旦那が来るさかいに、土産もん屋で待ち合わせしよ。ちょっと話あんねんけど、あんた時間大丈夫か?」

私「私は大丈夫でっけど・・・なんの話ですねん?」

女性「私ら夫婦でアップルに勤めてるんやけど、インターンシップに来てくれる学生さんを募集してるとこなんや。旦那が詳しいさかいに、とりあえず移動しよや。近くにサ店もあるよってに、ちべたいもんでも飲も」

こう言うと彼女はスタスタと私の前を歩き始めました。私は訳も分からずに彼女の後についていきました。彼女は自分のiPhoneで夫と連絡を取っています。

アップル社員と名刺交換をする

私たちが公式グッズ店に到着すると、ほどなくして彼女の夫が車で現れました。以下、その時の会話を思い出せる限り関西弁で再録します。

男性「おまっとうさん。こちらさんかいな、大学の先生ちゅう人は」

女性「せやねん。まだ自己紹介もしてへんかったわ。私、Dいいます。こっちは旦那のCです」

Cさん「(胸ポケットから名刺を1枚取り出して)Cです。はじめまして」

アップル社員の名刺

私「(名刺入れから自分の名刺を取り出し、裏面の英語表記を相手に見せて)あ、おおきに。syuheiと申します」

Cさん「日本語と英語の両面刷りでっか。初めて見ましたわ。おもろいでんな。何を教えてはるんでっか?」

私「英語がメインですねんけど、基本的な情報リテラシとかも教えてます」

Dさん「パソコンが好きなん?」

私「好きでっせ。ThinkPadユーザーですけど(当時)」

Dさん「あかんがな(笑)!そや、みんなで一緒にお昼でもと思うたんやけど、Cはもうランチすませたんやんな?」

Cさん「せや。さっきタコス食べてしもたんや」

Dさん「ほな、なんか飲みに行こか」

Cさん「あかんねん。今日ちょっと時間ないわ。仕事キッツキツや」

Dさん「ほな、立ち話になって悪いけど、syuheiにインターンシップの話、したってや」

Cさん「syuheiの大学にはコンピューター科学とかインフォマティクスの学部てありまっか?」

私「ありまっせ(注:立命館大学情報理工学部のこと)」

Cさん「そらよろしいわ。うちの部署、今ほんまシャレならんくらい忙しいんですわ。ほんで、学生さんにインターンシップに来てもらいたいんですわ」

2つのハテナ

Cさんは少し早口でしたがわかりやすい英語を話してくれたのでほぼ全て聴きとることができました。会話はまだ続きます。

私「Cさんは何つくってはるんでっか?」

Cさん「詳しいことは言われまへんけど、iPhoneの中に入ってる◯◯っていうアプリですわ」

Dさん「私は最近その部署から抜けたんやけど、私が辞めた途端に忙しなってん。優秀な人材がおらんようになったからCは大変やな!(爆笑)」

Cさん「よう言うわ!でな、syuheiはん、この話どう思います?(隣でDさん爆笑中)」

私「そらうちの学生さんも喜びますわ。せやけど、どうやって募集したらええんですか?」

Cさん「もらった名刺のメアド宛に必要条件(requirements)を書いて送りますさかいに、募集かけておくんなはれ。募集方法は・・・」

Dさん「Twitterでええやん。syuheiはTwitterやってんのか?」

私「やってます」

Cさん「フォロワー何人くらいですか?」

私「1,400人ちょぼちょぼ(当時)ですわ」

Cさん「えらいぎょうさん居てはりますやん!ほな、Twitter経由で募集しておくれやす。ほんで、届いた履歴書のカバーレターをsyuheiがザッと読んで、英語がOKやったら私にメールで送る、と。英語が一次試験ちゅうことで、あとの詳しいことはこっちでやりまっさ。これでいきまひょ(注:カバーレター cover letter とは、英文履歴書に添付するA4一枚程度の自己アピール文)」

お店に入ってわずか10分ほどしか経っていません。ここまでの展開があまりにも急だったので私は気圧されてボーっとしながら話をしていたのですが、2つのハテナが湧きました。

まず、この夫婦がアップル社員を騙っているのではないかという疑念です。しかし、あらためて名刺を見ますと、メールアドレスのドメインは apple.com です。他人の名刺を悪用している可能性もありますが、一旅行者の私(小太りの中年男性)をからかうメリットはあまり無さそうなので、この疑念はすぐに捨てました。

次に、どうしてCさんは名刺1枚で私が大学の講師だと信用できるのでしょうか。私(小太りの中年男性)がウソをついている可能性もあります。そんな相手にTwitter経由で学生から履歴書を集めて送るよう依頼するなどとは、企業組織で働く人間として軽率ではないでしょうか。思い切って尋ねてみました。

私「結構なお話なんですけど、なんで私のことを名刺1枚で信用できはるんですか?私がウソついてる可能性もありますやんか」

Cさん「おたくウソついてはるんでっか?」

私「ついてませんよ。せやけど・・・」

Cさん「It doesn’t really matter who you are if we can get a chance to recruit excellent Japanese interns.(とびきり優秀な日本の学生をインターンで雇える可能性があるんでしたら、おたくがどちらさんでも別に大した問題やおまへん)」

Cさんはたしか英語でこのように言ったと思います。この一言に私は大変驚きました。

Cさん「(腕時計を見て)ぼちぼち行かなあかん。ほな、これで失礼します。また連絡しますわ。ほな、D、またあとで」

仕事が忙しいというCさんは、そう言うとお店を出て行きました。残されたDさんと私はしばらくお喋りをしていました。

Dさん「syuhei、あの人に名刺あげてたやろ?でも、Cはめっちゃ忙しいから、きっと失くすわ。せやし、悪いけどあとでsyuheiの方からメールしてあげてくれへん?」

私「わかりました。(iPhoneを見せながら)あと、これが俺のTwitterアカウントなんですけど、これも送ったほうがいいですかね?」

Bさん「うん。(iPhoneを見せながら)あ、これが私のアカウントね。いま登録しといて。なんかあったら連絡するわ」

私「アップル社員はみなさんTwitterやってはるみたいですね。iOS 5からネイティブサポートされてますもんね」

Dさん「せやで。この近所にはFacebookの本社もあるんやで(注:Palo Altoのこと)。それより、お土産買わなくてええんか?」

私「あ、そやった」

The Company Storeの商品

Twitterで募集をかける

Dさんは私がお土産物を選ぶのを手伝ってくれました。お店を出ると、「手伝ってくれておおきに。今度カリフォルニアに来たら晩御飯おごるわ。ほなさいなら!」と言うと、来たときと同じようにまたスタスタと歩いて行ってしまいました。

その後、私はCaltrainでPalo Altoに移動してスタンフォード大学を見学に行ってここでもまた驚いたことがあったのですが割愛します。サンフランシスコに戻った私はグレイハウンドに乗り込み、6時間の長距離ドライブの末に翌朝ロサンゼルスに到着しました。ロサンゼルスではUCLAに行ってまたまた驚いたことがあったのですが、それも割愛します。

Dさんが懸念したとおりCさんからは全然連絡が来ません。そこで3/25の夕方、Cさんにメールを書いたところ、すぐに返信が来ました。メールでのやり取りで、インターンシップの募集に関する詳しい情報を教えてもらいました。

  • 仕事で使えるレベルの英語能力が必要。
    • syuheiがカバーレターを読んでチェックしてほしい。
  • C言語 / オブジェクト指向プログラミング言語の全般的な知識(general knowledge)が必要。
    • MacやiOS用アプリの開発経験があることが望ましい。
  • 採用の場合、渡航費・滞在費など全て出すのでお金の心配は要らない。給料も出す。
  • できれば3/28(太平洋標準時)までに集めた履歴書を送ってほしい。時間が無いので急いで出してほしい。
  • 不合格の通知は送らない。4月末までにアップルから連絡が無ければ諦めて欲しい。

3/26夜、ロサンゼルス国際空港で日本に帰るフライトに乗り込む直前に、私は次のようにTwitterでインターンシップの募集を呼びかけてみました。

どれくらいの反応が返ってくるかを楽しみにしながら、私は飛行機に乗り込みiPhoneの電源を切りました。

履歴書10通を転送。採用はゼロ

先のツイートは30RT以上リツイートされました。その結果、短い募集期間にも関わらず、日本国内・国外、いろいろな大学の学部生・院生の方からご応募を頂きました(ツイートではDMと書いていますが、その後、Gmailに連絡先を変更しました)。

たしか、国内外6つくらいの大学から計15通ほどのご応募を頂いたと記憶しています(個人情報ですので転送後に履歴書は全て消してしまいました)。そのうちカバーレターの英文を私が読んで10通にまで絞りました。英文のチェックのレベルは少し緩めにしましたが、その中でも数人のカバーレターは、よくこの短期間でここまで書いたなぁと思うほどよく書けており、さらにその中のひとりはズバ抜けて上手でした。

10通の英文履歴書(すべてPDF形式)を私はCさんに転送しました。私の仕事はここまでです。誰が受かったのか、誰が落ちたのか、その後の採用プロセスについては何も知りません。

そうは言っても結果が気になった私は、1ヶ月後の4/21、Cさんにメールでそれとなく状況を問い合わせてみました。するとCさんから返信があったので、私はその内容をまとめてツイートしました。

5月になって、電話面接まで進んだという学生のひとりから私宛にメールで連絡があり、採用プロセスの詳細を教えてくれました。さらにその後再びCさんにメールをして尋ねてみたところ、残念ながら、今回私が行った募集で採用された学生はゼロだったとの返信でした。

驚いたこと

採用ゼロは残念な結果でしたが、もともと降って湧いたような話です。果敢にチャレンジしてくれた十余名の皆さんにはこの場を借りて御礼を申し上げます。

私はただ履歴書を集めてカバーレターを読んで転送しただけですし、以上はあくまでも個人が偶然経験した話に過ぎません。それでもこの珍しい経験を通じて驚いたことがいくつかありました。

ひとつめは、私がDさんと出会ってからCさんと名刺交換をしてインターンシップ募集を依頼されるまでの、話がまとまるスピードです。たぶん30分もかからなかったと思います。もともとアップルは私が訪れた時期にインターンシップ生を募集しており、たまたま私と出会ったCさんが募集の話を持ちかけてくれただけだと思うのですが、それにしても見ず知らずの人間にいきなりTwitterを通じての募集を依頼する、そのスピード感にまず圧倒されました。

ふたつめは、私に依頼するところまでは即決即断だったのですが、その後メールをくれた電話面接まで進んだ学生によると、面接は30分ほどで、履歴書に書かれていた過去の参加プロジェクトなどについて質問を受けたそうです。こうした電話面接が複数回あるようです。面接の詳しい内容まではわからないのですが、募集までのスピード感と比べて面接は慎重に進められるようです(当然でしょうが)。その緩急の使い分けに驚きました。

みっつめは、アップル社が求める英語のレベルです。電話面接まで進んがダメだったという報告をくれた学生のカバーレターは、私の目から見てとてもよく書けていたと思います(削除したので手元にはありませんが)。もしかしたら英会話に難点があったのかもしれませんが、ともかく、Cさんがメールで書いていたように、アップル社のインターンシップで使えるレベルの英語能力は相当高い水準が求められるのだろうなぁという印象を持ちました。具体的な水準は私には知る由もないわけですが、相当高いのでしょう(たぶん私も落とされるでしょう)。日本国内でのESP (English for Specific Purpose) 教育だけでその水準に達することは可能なのかなぁと思いました。

最後に、時間とエネルギーとお金について。アップルは歴代最高の時価総額を誇る特別な企業ですので、今回の出来事をもってアメリカの全てのIT企業がこうだとは申しません。ただ、履歴書の手書き作成や説明会などへの参加で多くの時間、エネルギー、お金を費やさなければならない現実がある一方で、2日で用意したPDF形式の履歴書からスタートしてとりあえず世界有数の企業の電話面接にまで1週間たらずで辿り着くという現実もあるのだなぁと思いました。

蛇足:余は如何にしてMacユーザーとなりし乎

蛇足ですが、スタンフォード大学とUCLAを見学したとき、私が見かけた学生のほとんど全員がMacを使っていたことにも衝撃を受けました。帰国後、私はすぐにMacBook Airを買い求め、晴れてMacユーザーとなりました。DさんにTwitterでMacBook Airは素晴らしい(amazing)と伝えると、こんな返事が返ってきました。

Dさん「Yes, “amazing” is a quality Apple strives for!(せやで!素晴らしいっちゅうのがアップルが追い求めるクオリティなんや!)

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